銀行の先行き見通しが厳しいということがよくいわれますが、何をどうみれば良いかご説明します。簡潔にいうと資金粗利、業務粗利、人件費、引き当てコスト、この4つを抑えるとわかりやすいです。どこの銀行が儲かっているか、もしくはリスクが高いかの目安となると思います。
資金粗利
まずは銀行の本業の収益として一番重要な指標としてあげられるのが資金粗利です。これは貸出金の利鞘(利息収入)となります。貸出金が多ければ多いほど、貸出する際の利率が高ければ高いほど、資金粗利が高くなります。
貸出先がない、貸出先があっても銀行同士の競争が激しく金利を下げないと借りてもらえない。不景気になればなるほど企業は設備投資を控えますし、新たな事業に投資を行うという意欲も下がります。一般的に不景気であれば貸出金利も下がります。
貸出金利は預金金利とある程度連動します。今は預金金利が非常に低いためです。
貸出金利の一般的な指標として長期プライムレートが上げられますが、リーマンショックがあった2008年以降から右肩下がりです、現在は1.00%前後で長らく推移している状況です。リスクをとって銀行が長期プライムレート1.00%で1億融資して年間の利息収入が100万円です。
ここから銀行のコストが差し引かれます。大きくはまず原価にあたる調達コストです。0.1%程度として10万です。そこからシステム、人件費、銀行がある一等地の家賃など、販管費部分が差し引かれます。銀行によりますが2〜3割の20〜30万程度が利益として残るのではないでしょうか。
ただし、これは正常先といわれる優良先に貸出できた時です。不景気になり貸出先の業績が悪化したときになど、要注意先や破綻懸念先などとなった際に何が起こるか、後ほどご説明しますが引き当てコストというわれるものを積まなければなります。
その引き当てコストは貸出額の50%以上とかになる場合があり、貸出を行えば行うほど本業の資金粗利では儲からないということになります。
不景気になると何が起こるか、銀行は貸し剥がしや貸出金の回収を進めるようになります。儲かっている銀行ほど、そのような対応が早かったりという借り手側にとっては悲しい事実が隠れていたりします。
業務粗利
業務粗利を構成する一つの要素に資金粗利があります。資金粗利は銀行側も一定のリスクをとって行うものなので、それ以外でリスクを極力取らずに収益を上げようとします。それがよくいわれる役務収益です。
役務収益はM &Aの手数料、シンジケートローンを組成した際の手数料、コンサルティング手数料、外貨を取り扱った際の手数料、投資信託や保険を販売した時の手数料などになります。引き当てコストが関係なく、利益に直結するものなので、昨今非常に力を入れているという背景があります。
手数料収入について、銀行が顧客本意ではない提案を行い手数料収入に走るのはよくないことです。
ただし企業価値向上や顧客のリスクヘッジ、資産形成に必要なものなどであれば相応の手数料を支払うことは当然と考えること、そのために銀行も付加価値の高い提案を行うことが不可欠と考え、日々銀行員が自己研鑽を積んでいます。
人件費、引き当てコスト
銀行の費用として重要な項目が人件費と引き当てコストです。人件費はよくOHR比率といって業務粗利益に占める人件費の割合で示されることが多いです。一般的に60%〜程度が多いように思います。
単純にいうと儲かっていれば人件費かけても数値低くなるけど、今は儲からないから人件費カットしようというのが大きな銀行業界の流れです。そもそも人件費の水準が一般企業と比べて高いですから。
引き当てコストは銀行業界特有の指標かと思います。貸出先のリスクにあわせて倒産した時の引当金を積まなければならないというものです。銀行決算の根幹とも言えます。
なぜ銀行は企業の信用格付けを行うのか、それは引当金を計算するためです。正常先、要注意先、破綻懸念先、破綻先など、信用格付けの区分によって引き当ての割合が決まっています。
なぜ銀行が担保を重視するかについては、貸出金に対して担保の価値を控除した後の貸出金に対し、引き当ての割合を掛け合わせるという仕組み、ルールがあるためです。
すなわち貸出金に対し、担保の価値がそれ以上であれば、どんな業績が悪い企業であっても引当金は積む必要がないということになります。(厳密に言うと信用格付により引当方法が変わってくるので引当金の計算は一括りにはできません)
実際は更に人件費などのコストも加味するので損益計算上においては儲かりません。銀行は売上に占める人件費の割合も業界的に非常に高いといもいわれております。
最後にコロナの影響により貸出取引先の業績悪化、信用格付け悪化(正常先から要注意先への転落)、引き当てコスト増加が確実に起こります。影響を受けない銀行はないでしょう。以上から、銀行の決算悪化が非常に危ぶまれています。
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